0. はじめに
1. NetBSD/mac68k 1.0のサポートするハードウェアと問題点
2. 今回インストールを行なった環境
3. インストールの準備
4. NetBSD/mac68kのインストール
5. NetBSD/mac68kの起動
6. シリアル端末の使用
7. ネットワークの使用
8. カーネルやコマンド改造の準備
9. 終わりに
NetBSD1.0 のリリースでは Intel80X86 以外の機種が正式に サポートされた。
筆者の場合、Mac オタクを自認していたのだが、 Macintosh(以下 Mac と略記)では FreeUNIX が動かないため悔し い思いをしていた。仕方がないので、FreeBSD を動かすため に互換機を使用し uucp 等を行なってきた(UNIX User 誌 1994,6 月号)。しかし、ついに *BSD の雄である NetBSD が Macで動くよ うになった。喜び勇んで NetBSD をMac にインストールしてみた。
本稿は、Mac に NetBSD をインストールし、今後の環境整備 までの準備を記述する。読者の対象としては、あまりMacに 明るくない *BSD ユーザが、 Mac に向かってインストールを行 なうような場面を想定している。(例えば vipw コマンドや、 SLIP とは何であるかは、すでに十分理解しているとする)
また、今回の NetBSD/mac68k は以下に述べるように、いく つかの大きな問題があるので、インストールにするだけの価 値があるかどうかは、読者の Mac に対する思い入れに大きく 依存すると言えるだろう。
NetBSD/mac68k は本特集の別稿で扱われている。 MacMiNT , MachTen とは違い、 NetBSD の世界に入ってしまった ら、純然たる NetBSD マシンになってしまう。したがって、 MacOS が管理する Mac のファイル・システムや、AppleTalk ネッ トワークとはなんの関係もない。このあたりは互換機の UNIX や、Apple 純正 UNIX SystemV である A/UX (の初期のバージョン )と同じである。
Mac が完全に NetBSD マシンになってしまうことに関しては、 賛否両論あるだろうが、UNIX User 誌を愛読する *BSD ユーザ なら、特に抵抗を感じないだろう。筆者の場合、旧型機にとっ て重くなり過ぎた MacOS を載せ、遅い Mac とするより、最新バー ジョンの NetBSD が動作するマルチユーザ・ *BSD マシンとして、 余生を送らせてあげるのも一興だと考える。
サポートされるハードウェアについて NetBSD/mac68k 1.0 の「INSTALL」ファイルから抜粋する。
INSTALLファイルからの抜粋
サポート・モデルは 68030 を使用したMac II, Mac IIx, Mac IIcx, Mac IIci, Mac SE/30
である。これら機種では、
内蔵 SCSI インターフェースがサポートされ、HDD、多く の (most) SCSI テープ・ドライブ、CD-ROM がサポートされている。
ビデオカードも NuBUS の基本的なものは、ほとんど (most) がサポートされている。しかし、24bit カラーでは問 題がある。
内蔵シリアル・ポートは2つともサポートされている。
ADB キーボード、マウスもサポートされている。外部端末(シリアルライン tty か SLIP)から使用可能な機種 には、
Mac IIsi, Mac IIvx, その他にも動く機種があるかも
がある。RAM や HDD の本当の最低限度は、RAM は 4MBytes、HDD は MacOS を入れ、展開作業を行なうには 40MBytes で可能である。しか し、本当にコンパイルなどを行なうなら、 RAM は 8MB、 HDD もバイナリ配布をインストールするのに 50MB 程度は必要であ ろう。ソースとオブジェクトをインストールするには HDD が 105MB ぐらい必要。
サポートされないのは、
Ethernet カード
である。
68040ベースの MacEthernet カードは、閉じた(公開しない)作業として、いく つかのカードで作業中。寄贈は大歓迎。
68040 の Quadra700 で動かす仕事が進行中である。新しい SCSI ドライバと Ethernet ドライバが必要である。
なお、ドキュメントにはないが、フロッピー・ディスクも サポートされないようである。
どれも往年の名機というおもむきの旧型機ばかりである。 最近は MacOS も重くなり、これらの機種ではしんどいため、 読者の中には、これら機種を現役から引退させようとしてい た方も多いかも知れない。そういう場合、NetBSD が動けば、 また新しい使い道が見つかるかも知れない。
ただし、Ethernet がサポートされていないので、 SLIP-Ethernet のブリッジとしたりはできない。また、 Xwindow が動くわけでもないので、X端末になるわけでもない。 総じて、現段階ではあまり役に立たないと、言えようか?;-) それでも、無理やり使ってしまうのが、Mac オタクの真 骨頂だろう。
ただし、筆者は NetBSD/mac68k で、他の問題にもぶつかっ ている。筆者のマシンの構成(後に記述)に固有の問題かも知 れないが、先に問題点を書いておく。
- ADBキーボードがすぐにハングし入力できなくなって しまう。
- UNIX の時計(システム・クロック)が狂っている。時計 の補正ができない。
ADBキーボードが効かなくなるのは、control キーなどのモ ディファイア・キーを押しながら、たくさんのキーを押した 場合に頻繁に起こる。キーボードが効かなくなっても BSD カー ネルは正常に動作しているので、シリアルラインやネットワー ク (SLIP) から login していれば、仕事を続けたり、システム の reboot を行なうことはできる。tty ラインからの login と、 SLIP による IP ネットワークは非常に調子が良い。Mac のコン ソールをあきらめれば、rlogin や telnet によりマルチユーザ で使用でき、BSD マシンとして力を発揮できる。
時計の狂いは深刻である。まず最初、BSD カーネル起動時 に、ハードウェアのバッテリ・バックアップされた時計チッ プから時間を読み出すのに失敗しているようである。そして、 1903年12月31日からスタートしてしまう。BSD 起動後、 root から date コマンドで時間設定を行なおうとすると、カーネ ルがハードウェアへの時間設定を失敗し、カーネルがハング アップしてしまう。こうなると、すべて死んでしまうのでお しまいである。このような重要な問題が容認されているとは 思えないので、筆者の環境か、MacSE/30 だけの問題であるの かと思われるが、手元に他の 68030 マシンが無いので、試す 事ができないでいる。
この様に、問題を抱えた NetBSD/mac68k であるが、試用し てみる楽しみはあるだろう。また、これらのバグを修正する ためにも、68030 用セルフ開発環境を構築した方が簡単だろ う。そのために NetBSD/mac68k は役に立つ。
ここで、今回、インストールを行なった筆者のマシン構成 を述べる。
Macintosh SE/30 (8MB RAM)
Apple Keyboard II
ADB Mouse
Quantum Lightning 730S (730MB HDD)
Asante MacCon+30iET64 (EtherNet カード)
Mac のシステム・ソフトウェアは System6.0.8 英語版
NetBSD では Ethernet カードは、サポートされていないので 無くてもよい。ただし、インストール時には、MacOS 下で Ethernet を使用した方が便利である。
インストールはローカルに接続されたハードディスクか、 AppleShare (Apple 独自方式のネットワーク・ファイル・シス テム)からしかできない。筆者は、ftp を使用して、あらかじ め必要なファイルをすべてローカル・ディスクにコピーして から作業を行なった。
ちなみに筆者が、Ethernet ではなく、 LocalTalk(230K bps) 経由で、 NetBSD/mac68k に必要なファイルのコピーを行 なった場合には、約40分以上の時間がかかった(あまりに遅 いので、放っておいたため正確な時間は不明)。今では、 Mac 用の Ethernet 機器も安価になっているので、Ethernet カードを購入して作業するのが良いだろう。
今回のインストールで別途用意したソフトウェアは、StuffIt Expander 3.5.1である。
Silver lining 5.5.4
本誌 LibCD の NetBSD_For_Mac/ の下の *.hqx というファイル は、「BinHqx (ビンヘックス)」というフォーマットになって いる。これは UNIX の uuencode のごときもので、Mac でほぼ標 準のエンコード・フォーマットである(Internet 上の ftpable ソフトウェアは、ほとんどが BinHqx エンコードされている) 。 今回、StuffIt Expander は Binex のデコードのためにのみ使 用した。 BinHqx がデコードできればどんなソフトウェアで も良い。例えば、 fetch という Mac 用 ftp クライアント・ソフ トウェアは、ftp によるファイル読み込み中に、同時に自動 的に BinHex をデコードできる。
もし、CD-ROM ドライブ付きの Mac で ISO-9660 形式の CD-ROM がマウントできたとしても、ISO 形式には、Mac 特有のファイ ル管理情報がまったくないので、結局は BinHqx のようなエ ンコード・フォーマットに頼るしかないだろう。
Silver lining は Mac 用の非常に有名な SCSI HDD フォーマッ ト・ソフトウェアである。NetBSD/mac68kにはHDD上に A/UX (Apple 社純正の SystemV系UNIX)パーティションが必要で ある。今回、A/UX パーティションを作成するために、Silver lining を使用した。(最近は、最新版の5.6が1万5千円程度 で売られているので、入手は非常に簡単だろう)
INSTALL ドキュメントには、パーティションをメンテナン スするために、SCSI Directory Liteなどのソフトウェアがあげられている。
Disk Manager Mac from OnTrack
HD SC Setup from Apple
I/O Formatter from Diversified (?)
Silverlining from LaCie
APS Disk Tools
jagubox.gsfc.nasa.gov:/pub/mac/APS273.sit.hqxで見つかるだろうと、書かれている。
dunkin.princeton.edu:/pub/jagubox/mac/APS273.sit.hqx
筆者は、Silver lining 以外は使った事が無い。Apple の HD SC Setup は、 MacOS に添付されているが、純正 HDD にしか 使用できないので、あまり役には立たないだろう。
使用した MacOS は System6.0.8 英語版としているが、今回行 なっている作業は、日本語 OS でも、問題はないと思われる。 筆者の場合、たまたますぐに引き出せたのが、英語版であっ たのと、日頃から、英語圏ソフトウェアは英語版 OS で使用し ているため、今回もいつもどおりにしただけである。
まず、HDD にパーティションを切る。NetBSD/mac68k は、 MacOS の管理する世界とはまったく別な世界で動く。ファイ ル・システムもまったく違う物を扱う。この辺りの事情は IBM 互換機の *BSD とほとんど同じである。Mac の場合には、 80 年代中頃に Apple 純正の UNIX のせいで、似たような状態に なっていたので、 UNIX 専用パーティションをサポートした ソフトウェアがたくさん出回っている事が、多少有利だろう か。
NetBSD/mac68k は Apple 純正 UNIX である A/UX のパーティショ ンを流用する。従って、A/UX との共存は難しいかと思われる が、A/UX ユーザは一般にはほとんど居ないと思われるので、 問題は出にくいだろう。(A/UX ユーザなら自分で問題解決で きるだろう:-))
さて、NetBSD/mac68k には、2つの A/UX パーティション、 「Root & User」と「swap」が必要である。パーティション を切るために、Silver lining を起動する。
以下、手順を列挙する。
- HDD が複数接続されている場合は、HDD を選択する。
- もし必要なら HDD のフォーマットも行なう。
- すると図1のような Volume Manager の画面が出る。
- 変更したいパーティションの Volume name の欄にマウ ス・カーソルを持っていきクリックする。
- Volume」メニューの「Partition Types」を選ぶ。
- 図2のような Partition Types 選択画面になる。図2の ごとく、「A/UX Root&User slice 0」を選択する。
- 上記 4〜6 と同様に「A/UX Swap slice 1」を作る(図3)。
これで、A/UX パーティションが確保できる。当然のことな がら、作業用の MacOS のパーティションも残しておかなけれ ばならない。(別な HDD がある場合は不要)
Swap パーティションは INSTALL ドキュメントでは、実メモ リの倍程度が勧められている。しかし、本格的な使用を考え るなら、30MBytes 程度はとっておくべきだろう。
Root&user パーティションについては、INSTALL ドキュメン ト内に各アーカイブの展開時のサイズが記述されているので 参考にするとよい。
INSTALL の抜粋
- netbsd10 The NetBSD/mac68k 1.0 カーネル。絶対に必要
- [ 307K gzipped, 610K uncompressed ]
- base10 The NetBSD/mac68k 1.0 ベース・バイナリ。絶対に必要
- [ 6.2M gzipped, 18.4M uncompressed ]
- etc10 /etcその他。絶対に必要
- [ 50K gzipped, 280K uncompressed ]
- comp10 コンパイラー等
- [ 4.0M gzipped, 12.7M uncompressed ]
- games10 ゲーム
- [ 1.0M gzipped, 3.0M uncompressed ]
- man10 manページ
- [ 0.7M gzipped, 2.8M uncompressed ]
- misc10 タイプセットできる(roffやpsのソース状態)の ドキュメント、他のアーキテクチャのman ページ他、少し大きいもの色々。
- [ 1.6M gzipped, 5.7M uncompressed ]
- text10 groff等のテキスト処理ツール等
- [ 0.8M gzipped, 2.9M uncompressed ]
さて、パーティションができたので、必要ならば MacOS を 入れ、次の作業に移る。
今回は、必要なファイルをすべてローカル・ディスクに持っ てきて作業した。本稿では、ローカル・ディスクに全ファイ ルが存在しているとして、説明を進める。ただし、 AppleShare を使用している場合には、実行速度が遅いだけで、 まったく同じ事が行なわれるはずである。
ローカル・ディスクにファイルを持ってくるには、いくつ かの方法がある。例えば Mac に CD-ROM ドライブがついていれ ば、ISO9660 で CD-ROM をマウントし、それをコピーすれば良 い。筆者の場合は、NCSA Telnet の ftp サーバ機能を使用し、 SUN に接続した CD-ROM から、 ftp プロトコルで MacSE/30 に転 送した。
ftp する場合、mac68k/utils/*.hqx (本誌 LibCD の場合 NetBSD_For_Mac/util/*.hqx) は TEXT モードで転送し、 mac68k/binary/ (本誌 LibCD の場合 NetBSD_For_Mac/binary/) 下のアーカイブされたファイルは BINARY モードで転送するの が便利で良い。なお、 mac68k/binary/*.hqx は .hqx の付か ない物と同じなので、転送する必要はない。
ファイルが揃ったら、次に NetBSD 専用のインストール・ソ フトウェアを準備する。NetBSD/mac68k/utils/ (本紙 LibCD の 場合 NetBSD_For_Mac/util/)の下にある 3つの *.hqx ファイ ルを展開する。
展開するには、StuffIt Expander を起動し、「File」メニュー の「Expand…」を選択する。すると、ファイル指定ダイアロ グが開くので、所望のファイルを指定する。これを3回繰り 返して、Mkfs, MacBSD Install Utility 1.0, MacBSD_Booter_1.4 の3つの Mac アプリケーションを得る。
StuffIt Expander は hqx をデコードすると同時に *.cpt アー カイブも展開してしまう。が、単純な BinHqx デコーダを使用 した場合は、*.cpt というファイルができるだけだろう。 *.cpt というのは、Compacter というアーカイブ兼圧縮ソフト なんらかの Compacter の解凍ソフトウェアが必要である。
A/UX パーティションはできた。必要なファイルも揃った。 ユーティリティ・コマンドもできた。ということで、いよい よ、NetBSD のインストールである。
まず、Mkfs でファイル・システムを作る。しかし、パーティ ションはもうあるので、ディスク・ラベルを指定するような 事もない。本当にあっけなく終る。
以上で終りである。
- Mkfs をダブルクリックして起動する。図4のようなダ イアログ画面が出るので、OK をクリックする(return キーを 押下してもよい)。
- SCSI デバイスの一覧が出るので、所望の HDD を選択す る(図5)。ここでは必ず SCSI ID 番号のラジオ・ボタンをクリッ クしなければならない。
- パーティション一覧が出るので所望のパーティション を「FORMAT」する(図6)。
- エラー確認ダイアログが出るので、「I Read it」を クリックする。
次に、ファイルをインストールしていく。これがもっとも 時間のかかる作業であるが、mac68k/binary/* (本紙 LibCD の 場合、NetBSD_For_Mac/binary/*) ファイルが正しく持って来 れていれば、この作業もトラブルは出ないだろう。
次々、全部インストールを行なえば良い。
- MacBSD Install Utility 1.0 を起動する。
- SCSI デバイスの一覧が出るので、所望の HDD を選択す る(図7)。
- 「File」メニューの「Build Devices」を選んで /dev/ 下のデバイス・ファイルを作る (Install は時間がかか るため、筆者は Build device を忘れがちである。よっ て、先にデバイスを作る事にしている)。
- 「File」メニューの「Install」を選ぶ。
- すると、ファイル選択ダイアログが現れる(図8)ので、 netbsd10 を展開、インストールさせる。
- 以下同様に、base10,etc10 等をインストールさせる。
ただし、netbsd10,base10,etc10 があれば最低限の起動は できる。最低限のインストールができたところで、一度、 NetBSD を起動して試した方がよいだろう。
なお、今回の構成の場合、インストールの所要時間は表1 の通りである。目安にして欲しい。
netbsd10 | 約 30秒 |
base10 | 約 25分 |
etc10 | 約 1分 |
comp10 | 約 20分 |
misc10 | 約 10分 |
games10 | 約 7分 |
text10 | 約 8分 |
man10 | 約 15分 |
いよいよ、NetBSD/mac68k を起動しよう。
MacBSD_Booter_1.4 をダブルクリックして起動する。画面 はほとんど変化せず、メニューバーのメニュー項目だけが、 変わっている。
と警告が出て、最終的にプロンプトが出るだろう。
- 「Options」メニューの「Booting…」を選ぶ。
- 図9のような画面が出る。今回、変更しなければなら ないは、ただ一つ。 Root SCSI ID を適切な HDD SCSI 番号に設定する。
- 変更内容をセーブするために、「File」メニューの 「Save Preferences」を選択する。
- しかし、それだけでは変更がセーブされないので、一 度「File」メニューの「Quit」を選択し、Booter を終了する。
- 再度、Booterを起動する。
- 「Options」メニューの「Boot Now」を選ぶと、 NetBSD/mac68kの起動が始まる。
- デバイスがプローブされた後、 「CHECK AND RESETDATE!」
プロンプトが出れば、一通りなんでもできると思う。 NetBSDのインストールはほぼ成功していると考えて大丈夫だ。 ただし、キーボードをやみくもに押しては、コンソールがハ ングしてしまうので、キー一つづつを丁寧に入力しよう。
最低限のインストールが確認できたら、halt -q などとし て、NetBSD を終了し、 MacBSD Install Utility 1.0 による ファイルのインストールを続ければ、おしまいである。
次に NetBSD/mac68k を起動した時にはマルチユーザ・モー ドで起動し、getty がプロンプトを出してくるだろう。これ でインストールは完了である。games まですべてのバイナリ をインストールした場合、HDD の容量は 47.5MBytes 程度であ る。
筆者の環境の場合、NetBSD/mac68k のコンソールはあまり に使えないので、外部の端末からの使用は必須である。
まず手始めにシリアルラインに getty を起こして、シリア ルラインに接続した端末から login することにしよう。
- Mac のモデム・ポートに RS232C に接続する端末を接続 する。
- NetBSD/mac68kの/etc/ttys の16行目
tty00 "/usr/libexec/getty std.9600" unknown off secure
という行の off を on と変更する。
- スーパ・ユーザになって、
# kill -HUP 1
とする。(init にシグナルを送り、/etc/ttys の変更を 伝える)
これで、モデム・ポートに getty があがる。モデム・ポー トに接続した RS232C 端末を、9600bps,パリティー even、 Stop-bit 1bit にしてやれば、端末から login して、自由に NetBSD/mac68k を使える。コンソールの様にハングアップし ないので、ストレス無く使用できる。
ここで、RS232C 端末の代わりに、IBM 互換機の FreeBSD の tip コマンドを使用するのは、なかなか大変である。最近の FreeBSD では、シリアル・ラインの DTR 入力を厳しくチェック する。DTR を無視する指定が clocal なのであるが、tip コマン ドでは、clocal の指定ができず、DTR をごまかすことが難し い。(筆者は汚い技を使って FreeBSD2.0R の tip コマンドを端 末としたが、ここに書くようなものではない)
シリアル・ポートに接続するのは、すでに Mac との接続に 実績のある端末(または端末エミュレータ・ソフトウェア)に しよう。
折角の NetBSD であるから、ネットワークを使用しなくては モッタイ無い。しかし、Ethernet のサポートは皆無であるか ら、シリアル・ラインを介した SLIP か PPP しか望む事ができ ないだろう。
ここでは、SLIP を使用して、FreeBSD2.0R の IBM 互換機と接 続してみた。
- シリアル・ラインに getty を上げている場合は、ttys のエントリを off にして kill -HUP 1 を行なう。
- /etc/hosts に自機のホスト名、IP アドレスを登録する。
- /etc/hosts に SLIP 先のホスト名、IP アドレスを登録す る。
今回は192.47.226.154 se30
の様にした。
192.47.226.10 gyopi- /etc/myname に自機のホスト名を書く。
se30
とした。- /etc/netstart の最後に
slattach -s 38400 /dev/tty00
と書く。本来はエラーチェックなどもすべきだが、コン ソールはハングするおそれがあるので、打ち込むのは最 小限にしたい。よって、今回はこの2行だけである。
ifconfig sl0 $hostname gyopi
slattach 行の意味は、38400bps で /dev/tty0 を使用して、 SLIP を行なう。
ifconfig は、ネットワーク・インターフェースに sl0 を指 定し、そのインターフェースの持つ IP アドレスと、ポイント・ ツー・ポイントなので、接続先の IP アドレスをも設定してい る。
なお、slattach と ifconfig は手で設定して、実験しても良 い。
さて、NetBSD/mac68k の接続先となる機械が *BSD の場合は
大変簡単である。上で行なったのと同様な作業を、*BSD でも
行なえばよい。FreeBSD2.0R の場合は、まったく同じで良い
だろう。ただ、FreeBSDのslattach は clocal を指定する事が
でき、DTR を無視して接続可能であるので、
SLIP を行なう前には、ケーブルや様々な要因を確認するた めに、一度は、シリアル端末として login できるかどうか確 認した方が安心だろう。
両者で、slattach が立ち上がり、ifconfig も終了したなら、% ping gyopi
などとして、接続を確認する。
ping の応答が無い場合は、% ps aux
として、slattch が立ち上がっているかどうか。% ifconfig sl0
として、
sl0: flags=c011<UP,POINTOPOINT,LINK2,MULTICAST>inet 自機IPアドレス --> 接続先IPアドレス netmask 0xffffff00
となっているかどうか、を確認する。
DTR やハンドシェイク・ラインが確実につながっていない 場合には、SLIP は難しいので、ケーブルに細工が必要になる こともある。筆者の場合は、Mac 用のプリンタ・ケーブル (Din8-DB25 クロス)と DB25-DB9 変換コネクタを使用する事で、 うまく接続が行なえた。
ping がうまく応答を返した場合は、IP ネットワークが使用 可能なので、 telnet,ftp,rlogin など、IP を使用したサービ スはほとんどが使用可能である。ただし、NetBSD/mac68k は MTU (パケットの最大転送単位)が 296Bytes なので、NFS や TFTP といった、大きなパケットが必要な UDP ベースのサービ スは利用できない。
とは言っても、通常ユーザが使用するコマンドはほとんど がTCP のサービスなので、 MTU に関わりなく利用できる。例 えば、Xwindow サーバが動かなくても、 Xwindow クライアン トを動かす事は可能である(筆者はまだ、そんなことをする ほど NetBSD/mac68k を使い込めていない ;-))。
38400bps で接続したネットワークは、かなり使い物になる。 ftp はあまり速くないし、NFS もできないが、プログラム開発 には一応便利に使える。
NetBSD/mac68k はシリアル・ライン以外に他の世界とやり とりできないように見える。実際、NetBSD が起動してしまう と、その通りである。
しかし、大量のアーカイブは別な方法でやりとりしなけれ ばならない。そのために、インストール時に使用した MacBSD Install Utility 1.0 が利用できる。勘の良い *BSD ユー ザなら考える通り、Install Utility 1.0 は、tar cvf -|gzip されたアーカイブを展開しながら、NetBSD のファイル・ システムに置いてくれるのである。
この Install Utility を使用する事によって、NetBSD のソー スも持ち込む事ができる。
例として、ssrc を展開してみよう。(LibCD VOl.11 に入っ ている)
- 全体がつながったアーカイブ・ファイルを作る。 cat NetBSD/NetBSD-1.0/source/ksrc10/ssrc* > ssrc.tgz
- ftp,AppleShare 等で、ssrc.tgz を Mac に送る。
- Install Utility 1.0 を起動し、4節で説明した 手順4,5の要領で、展開を行なわせる。
これだけの手順で、いかなる tar cvf -| gzip したアーカ イブも、 NetBSD/mac68k に持ち込む事ができる。
NetBSD のカーネルやコマンドをセルフ環境で開発したい場 合には、以上の方法で、展開すればよい。
ついに Mac でもフリーな *BSD が利用できるようになったか と感慨深い。しかし、問題はまだいくつか残っている。また、 MacOS と共存して仕事を進めるには、本特集別稿の MachTen や MacMiNT の方に長がある。
dhrystone1.1 で計測した結果(gcc -O4 -DREG=register)、 4900 程度であり、 2.8VAX-Mips 程度の性能となっている。UNIX マ シンとしては、かなり低い性能ではある。しかし、仮想記憶 は頑丈でほとんどこけることはない。
コンソールはともかく、時計さえちゃんとすれば、*BSD マ シンとして、使っていく事は可能である。
とりあえず NetBSD/mac68k をインストールし、セルフ開発 環境を整え、バグ取り、ドライバ開発などを行ない、*BSD の 世界に貢献してみるのも、*BSD ユーザとして興味深いかも知 れない。